伊弉諾神・伊弉冉神 ② 黄泉の国・身禊・三貴子誕生・幽宮

2016年11月1日

黄泉の国

亡くなった妻を取り戻そうと、伊邪那岐命は黄泉の国へ向かう。

  • 黄泉の国とは「死者の国」。ヨミの語源は、「夜見」「闇」「夢」など諸説ある。「黄泉」は「ヨミ」に対する当て字なのだが、漢語の意味としては「地下の泉」らしい。
  • 古事記には「常世の国」や「根の国」など類似する表現があり、これらが同一のものかどうかも諸説ある。
  • また黄泉の国の場所についても、古事記では「出雲と伯耆の境目」、日本書紀では「熊野の花の窟」と、それぞれ記述が異なるのである。

話を戻そう。

黄泉の国に到着した伊邪那岐命は、戸越しに伊邪那美命に言う。「まだ国土は完成されていない。一緒に帰ろうではないか。」

伊邪那美命が答えて言う。「もう少し早く来てくれたらよかったんですが。。。黄泉の国の食べ物を食べてしまったから、もう生き返ることはできません。でも、黄泉神に相談してみます。それまで、決して私の姿を見ようとはしないで下さいな。」

伊邪那岐命は、妻がなかなか戻ってこないため、自分の左の角髪(みずら)につけていた湯津津間櫛(ゆつつなくし)という櫛の端の歯を折って、火をともして中をのぞき込んだ。

  • これが「一つ火」。「一つ火」が不吉であると言われる由縁である。

すると伊邪那美命は、体は腐って蛆が湧いていて、声はむせびふさがっていて、蛇の姿をした8柱の雷神「八雷神」がまとわりついている。なんとも醜い姿に変わり果てていたのである。

伊邪那美命についた「八雷神」
  • 大雷(おほいかづち、頭)
  • 火雷(ほのいかづち、胸)
  • 黒雷(くろいかづち、腹)
  • 折雷(さくいかづち、陰部)
  • 若雷(わかいかづち、左手)
  • 土雷(つちいかづち、右手)
  • 鳴雷(なるいかづち、左足)
  • 伏雷(ふすいかづち、右足)

これに驚いた伊邪那岐命は逃げようとする。伊邪那美命は自分の醜い姿を見られたことを恥じて「黄泉醜女神」に追わせる。蔓草を輪にして頭に載せていたものを

逃げる伊邪那美、追う黄泉醜女。

伊邪那岐命はつる草を輪にして頭に載せていたもの 投げ捨てた。すると葡萄の実がなり、黄泉醜女がそれを食べている間、逃げた。しかし、すぐに食べ終わり追ってくる。

こんどは右の角髪(みずら)につけていた湯津津間櫛(ゆつつなくし)という竹の櫛を投げた。すると竹の子が生え、黄泉醜女がそれを食べている間に逃げる。

  • 蔓草が葡萄になる、櫛が竹の子になるというのは、呪術の一種であろう。

伊邪那美命は、さらに「八雷神」と「黄泉軍」に伊邪那岐命を追わせた。

伊邪那岐命は、「後ろ手」に十拳剣で振り払いながら逃げ、ようやく黄泉の国と地上の境である黄泉比良坂(よもつひらさか)の坂本に着いた。

  • 「後ろ手」でなにかをするのは、相手を呪う行為とされる。転じて、後ろ手に手を振るなどは、相手に対して失礼極まりない行為とされるようになった。

そこで坂本にあった桃の実を3つ投げたところ、追ってきた黄泉の国の悪霊たちは逃げ帰っていった。桃に助けられた伊邪那岐命は、桃を「意富加牟豆美命」(おほかむずみのみこと)と名付けた。

  • 中国では仙人の食べ物とされている桃には、悪霊や邪気を覆い隠す力があると言われている。魔除けである。桃の節句、桃太郎伝説はこれに由来する。

最後に、悪霊が出てこないように、大きな岩石を置いて黄泉比良坂をふさいだ。そして、この岩石をはさんで、二柱の神は離別の言葉を交わすのである。

伊邪那美命:「私はこれから毎日、あなたの国の民を一日に千人ずつ殺そう」
伊邪那岐命:「では私は、私の国の民が滅びぬよう一日に千五百人産ませよう」

  • これが人間の生死の由来である。

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禊祓

黄泉の国からなんとか帰還した伊邪那岐命は、穢れから身を清めるために、「竺紫(つくし)の日向(ひむか)の橘の小門(をど)の阿波岐原(あはきはら)」で禊を行う。

脱いだ衣服や装飾品などら生まれた12柱の神

  • 衝立船戸神(つきたつふなと、杖)・・・疫病・災害などをもたらす悪神・悪霊が集落に入るのを防ぐ神
  • 道之長乳歯神(みちのながちは、帯)・・・長い道のりを追ってくる悪神・悪霊が集落に入るのを防ぐ神
  • 時量師神(ときはかし、袋)・・・袋の口を広げて悪神・悪霊を追い払う神。
  • 和豆良比能宇斯能神(わづらひのうし、衣)・・・衣服に付着した悪霊が集落に入るのを防ぐ神
  • 道俣神(ちまた、袴から生まれる)・・・道に関する神
  • 飽咋之宇斯能神(あきぐひのうし、冠)・・・日本書紀では褌(フンドシ)から生まれれる
  • 奥疎神(おきざかる、左手の腕輪)・・・海に関する神であろうが詳細は不明
  • 奥津那芸佐毘古神(おくつなぎさびこ、同上)・・・海に関する神であろうが詳細は不明
  • 奥津甲斐弁羅神(おきつかひべら、同上)・・・海に関する神であろうが詳細は不明
  • 辺疎神(へざかる、右手の腕輪)・・・奥疎神と対になる
  • 辺津那芸佐毘古神(へつなぎさびこ、同上)・・・奥津那芸佐毘古神と対になる
  • 辺津甲斐弁羅神(へつかひべら、同上)・・・奥津甲斐弁羅神と対になる

伊邪那岐命の体についた穢れから生まれた神

「上流は流れが速い。下流は流れが弱い」といって、最初に中流に潜って身を清める。このときに黄泉の「穢れ」から二柱の神が生まれる。

  • 八十禍津日神(やそまがつひのかみ)・・・災厄の神
  • 大禍津日神(おほまがつひのかみ)・・・災厄の神

穢れを祓う神々の誕生

その「禍(まが)」を直そうとすると三柱の神が生まれる。

  • 神直毘神(かむなおび)・・・穢れを払い、禍(まが)を直す神。
  • 大直毘神(おほなおび)・・・穢れを払い、禍(まが)を直す神。
  • 伊豆能売(いづのめ)・・・穢れを払い、禍(まが)を直す神。神や命の称号がない。巫女であるとも言われている。

「祓詞」で登場する「祓戸大神」や、「大祓の祝詞」で登場する「祓戸四神」についての記載が古事記には無い。

これについて、本居宣長が、次の通り比定しているが明確な根拠はない。

  • 瀬織津比売・・・八十禍津日神
  • 速開都比売・・・伊豆能売
  • 気吹戸主・・・神直日神
  • 速佐須良比売・・・須勢理毘売命

住吉三神、少童三神の誕生

水の底で身を清めると二柱の神が生まれた。

  • 底津綿津見神(そこつわたつみ)・・・海の神
  • 底筒之男神(そこつつのを)・・・海の神、航海の神

水の中程で身を清めると二柱の神が生まれた。

  • 中津綿津見神(なかつわたつみ)・・・海の神
  • 中筒之男神(なかつつのを)・・・海の神、航海の神

水の表面で身を清めると二柱の神が生まれた。

  • 上津綿津見神(うはつわたつみ)・・・海の神
  • 上筒之男神(うはつつのを)・・・海の神、航海の神

底津綿津見神、中津綿津見神、上津綿津見神を「少童三神」(わたつみさんしん)といい、合わせて「綿津見神」という。神産みの始めに産まれた「大綿津見神」とは別神である。

底筒之男神、中筒之男神、上筒之男神を「住吉三神」といい、合わせて「住吉大神」ともいう。

三貴子誕生

最後に顔を洗ったとき、三柱の神々が生まれた。

  • 左目を洗うと「天照大御神」が生まれた。
  • 右目を洗うと「月読命」が生まれた。
  • 鼻を洗うと「建速須佐之男命」が生まれた。

伊邪那岐命は「最後に三柱の貴い子を得たり!」と喜び、それぞれに役割を与えた。

  • 天照大御神に「御倉板挙之神」(みくらたなののかみ)という首飾りの玉の緒を渡して高天原を委任した。
  • 月読命には夜の食国を委任した。
  • 建速須佐之男命には海原を委任した。

伊邪那岐命の幽宮

須佐之男命が母に会いたいと「妣国根之堅州国」へ行きたいと言って泣き止まないため、伊邪那岐命は須佐之男命を追放し、幽宮に篭った。隠居である。

日本書紀によれば淡道(淡路島、淡路市)の多賀に篭ったとされ、古事記では版により淡道(淡路島)と淡海(近江)との記述がある。

そのため、伊弉諾神宮と多賀大社の両社が、伊邪那岐命の幽宮跡として主張しているのである。