敷津松之宮・大国主神社|大阪|神仏習合の極致。大国町に鎮座する古社で、大国さんについて考える。
敷津松之宮と大国主神社は、大阪市浪速区敷津西に鎮座する神社である。
訪問するとわかるのだが、この2社は、南北ラインが「敷津松之宮」、東西ラインが摂社の「大国主神社」。境内中央で2つの内参道がクロスする形で鎮座する珍しい神社。
現在地元で親しまれているのは「木津の大国さん」として有名な、摂社の「大国主神社」の方だろう。この辺りの地名「大国」も大国神社に由来するという。
同じ七福神で商売の守護神「戎神」を祀る今宮戎神社が、ちょうど真東の、それほど遠くない距離にあるのも刺激になっているかもしれない。
そこで大阪の庶民は、十日戎に折には「東のえべっさん」と「西の大国さん」の両方に参ることを風習としたようだ。
敷津松之宮について
このように、敷津松之宮の方は社名を聞いてもピンとこないほど存在感は薄れてしまっていると思われるのだが、
しかし実は、敷津松之宮は住吉大社に匹敵するほどの古社なのである。
敷津松之宮の創建
創建は神功皇后の御代のことと伝わる。(西暦200年頃か)
以下、創建伝承を記しておく。
三韓征伐から凱旋した神功皇后一行。難波の海が荒れて進めなくなる。
住吉三神いわく「大津の渟中倉の長峡に、吾を祀れば波穏やかになるであろう。」
そこでまずは「住吉大社」を創建。航海の安全を祈願した。
住吉大社から北に向いて航行中、敷津の浜にさしかかったところで、海岸に荒波が激しく打ち寄せるのを見る。
武内宿禰が、その海岸に三本の松を植えて、この松より上に潮が来ぬよう祈願した。そして松の木の下に「スサノオ尊」を祀ったのが、敷津松之宮の創建
と伝わっている。このようなことから「松本社」ともいうらしい。
その後、平安時代には牛頭天王社もしくは祇園社と呼ばれるようになり、明治以降は八坂神社と呼ばれた。
敷津松之宮の祭神
主祭神に、素盞嗚尊・大國主命を祀る。
配神として、事代主命・奇稻田姫命・少彦名命・八柱御子神を祀っている。
素盞嗚尊
皆さんご存知の天照大神の弟である。神話では何かと悪行を働いたとかで高天原を追放され地上に降り立った神とされているのだが、地上においては英雄として描かれている。そのギャップが凄まじい。
素戔嗚尊が登場する最も有名な神話は、八岐大蛇であろう。
八つの頭を持つ大蛇に生贄として捧げられそうになった娘を助けるため、素戔嗚尊が奮闘し、見事に退治するという神話だ。
その尻尾からは「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」が出来てきたという。この剣は後に「草薙剣」と呼ばれるようになる。三種神器の1つである。
そして、その時の娘が「奇稻田姫命」であり素盞嗚尊の妃となった人である。
素戔嗚尊は、平安時代の神仏習合思想において、祇園精舎の守護神「牛頭天王」と習合。よって、素戔嗚尊を祀る神社は軒並み、祭神を牛頭天王に変更し、社名も「牛頭天王社」「天王社」「祇園社」などに名称変更した。
疫病除けの神として祀られることが多い。
明治維新以降、神仏分離政策が施行されると、逆に、祭神を素戔嗚尊に戻したという経緯がある。
大国主命
国津神の代表的な神。国津神とは天孫降臨以前に地上(葦原中国)を治めていた土着の神。対して、高天原の神を天津神という。
素戔嗚尊の跡を継いで、大国主命は少彦名命という協力者とともに、葦原中国の平定・国造りを行ったのだが、最終的には天津神に国を譲ることになる。
国を譲る際、「天孫の宮殿よりも天高くそびえる社を建ててそこに祀り、祭祀おろそかにしないこと」という条件を付けた。
その社が、現在の出雲大社である。
しかし、苦労して造った国を平和裏に譲るなどあり得ない話である。策略謀略の果てに奪い取られたと考えるのが普通。となると、出雲大社の意味合いも変わってくる。出雲大社は怨霊封じの神社なのではないだろうか。
大国主神社について
大国主神社の創建
1744年、神託が降りたとのことで、出雲の杵築神社(出雲大社)より大国主命が勧請され、敷津松之宮境内に社殿を造営し、摂社として創建された。
素盞嗚尊ー大己貴命の関係でこちらに祀られたのであれば、当時の大阪においてスサノオを祀る神社の中では、松之宮が最有力だったのだろうか。
大国主神社の祭神
こちらの社は「日出大国神」を祀っている。この神が大国主命。
勧請された時代は江戸時代なので、神道の大国主命と密教の大黒天は習合していた、いや習合しているというような認識すら無くなってしまっていた時代の勧請である。
では、大国主命と習合した大黒天とは?
天部神の一人。天部神とは、梵天、帝釈天、四天王、吉祥天、弁才天、鬼子母神、大黒天、竜王、夜叉、聖天、毘沙門天などなど仏教を守護する神々である。
もともとは、ヒンドゥー教のマハーカーラで軍神・戦闘神、富貴爵禄の神であった。
それがチベット密教に取り入れられ、さらに中国仏教に取り入れられ、富貴爵禄の神徳がクローズアップされていく。
中国で富貴爵禄の神となった大黒天は、密教とともに日本に上陸。真言宗や天台宗で信仰されるようになった。
その後、日本において、「大国」と「大黒」のダイコクつながりで大国主命と習合。
よって、「大国さん」も富貴爵禄すなわち商売繁盛の神となっていくわけである。
敷津松之宮 参拝記録
商都大阪で最も盛り上がる祭りのひとつが、今宮戎神社の「十日戎」。
この祭り、大国主神社への参拝も含めて「両詣り」が基本と言われているようだ。大阪で生まれ育った私であるが、知らなかったのである。
というわけで、今回の参拝となった。
地下鉄御堂筋線・四つ橋線の大国町駅を降りる。一番北の出口から地上に上がると、すぐそこに神社がある。
敷津松之宮の鳥居
まずは敷津松之宮から参拝である。南に面した鳥居が松之宮の鳥居だ。
敷津松之宮の拝殿
破風の下に大きく「氏神様」と書かれている。こちらの社殿を大国主神社と勘違いして参拝する人々が多いのであろう。親切だ。
狛犬の手前を横切る通路が大国主神社の参道である。
祭神案内板
祭神、「種銭」の広告、御利益。必要最低限の神社の説明がなされている。
祭神名などは、なかなか味のある字体だ。
大国主神社 参拝記録
大国主神社の鳥居
こちらが大国主神社の鳥居である。境内の東面にある。難波や梅田に向かう際に車から見えるのはこちらの鳥居だ。
大国主神社 拝殿
こちらも大きく「大国様」と書かれている。親切だ。
そして注目すべきは、狛犬ではなく狛鼠であること。ネズミは大国神の使徒とされる。
ネズミと大国主命との関係
大国主命の青年時代。大己貴命・大穴牟遅命と呼ばれていた頃。いじめられていた大己貴命は逃げるようにして、根の国にやってきた。
そこで出会った「須勢理毘売命」を見たとたん一目惚れ。たちまちのうちに結婚。
須勢理毘売命は父親に大己貴命を紹介するわけだが、なんとその父親は素戔嗚尊であった。
素戔嗚尊は、頼りなさそうに見える大己貴命を試すことにした。最愛の娘の将来を託すに値する男かどうか。いくつもの試練を与える。恐ろしい素戔嗚尊のすることだ。対応できなければ死あるのみ。
ある日、大草原に鏑矢を放ち、それを探して持ってこいと言う。大己貴命が草原に分け入ると、なんと火をつけられたのである。
周囲は火の海。絶体絶命のピンチ。そこにネズミが登場し大己貴命にこう言った。「内はほらほら、外はすぶすぶ」。
足元の地面を踏むと、その下が空洞になっていた。その空洞で火が燃え尽きるのを待つ。さらにネズミが鏑矢を拾ってきてくれた。
というような関係なのだ。
さらに、大黒天との関係をみると、、、
大黒天は北の守護神。北は「子(ね)」の方角。「子(ね)」すなわち「ネズミ」。
ちなみに、大国さんの縁日は「甲子」。十干の最初の「甲」と「子」。「子」も期せずして「十二支」の最初。
面白い。
日出大国神像
こちらが、2mもある大国像。
しかし本来のところ、神道における神は偶像崇拝しないのである。
さらには手印を結んでいる。そういう意味では、こちらの大国神は仏教色が強い。
であるからして、こちらの大国神は大黒天なのであると私は結論付けた。そう認識して参拝しようではないか。
しかし、その場合でも、神道式すなわち二礼二拍手一礼でいいのだろうか。
出雲大社からの勧請であり、一慨には言えないが鳥居があるから神社なのであり、神社本庁にも所属しているようなので、やはり神社なのだろうか。
二礼二拍手一礼で参拝することにする。いやいや出雲大社に倣って四拍手か???
大国像の御顔を眺めていると、さすがに信仰を集めるだけあって、いい御顔をされている。
胸の赤い太陽からパワーが出ているような気すら覚えるのである。
申し上げておくが、私は決して仏教や仏像を否定する立場ではない。むしろ神社と同じように大好きである。
ただ、仏教と神道は、その起源・成り立ち・思想からして異なるのであるからして、私の意識の中では、できるだけ混同したくないと思っているだけなのだ。
だからこのように、参拝前にややこしいことを考えてしまうのである。自分自身、疲れるのだが。。。
大国主神社の種銭
この種銭を財布に入れておくと、商売繁盛・金運が上がると言われている。
人気のある授与品だ。初穂料500円。
境内社
白龍明神社
大黒様の裏手に回ると「白龍明神社」が鎮座する。「巳さん」と書かれている。親切だ。
白龍・白蛇を祀る祠である。おそらくは「水」に関する祈りを捧げる場所なのであろう。
気になるのは、台座と祠のサイズが合っていないということ。以前は一回り大きな祠が設置されていたはずだ。
楠稲荷社
最後に「楠稲荷社」を参拝。楠となっている場合、社の裏手に楠の大木があるのが普通なのだが、見当たらない。
以上、敷津松之宮・大国主神社の参拝記録でした。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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